7


翌朝誰かのアラームのおかげで予定より早く、至極不機嫌に目覚めた。マジックの遠征でしばしば起こることだね。俺はダサいジャージを羽織り、シャワーを浴びずにエヴァンとエドと出発した。

俺はタクシーを呼んだあとホテルを出て間違った方向に半区間ぐらい歩いてしまった。そのせいでエヴァンはアナフィラキーショックを起こしかけた。会場を見渡すと、面識がある奴を数名見つけた。CFBの誰かが目の前を通ったが、有名人を見かけるのは友人に出会うことより数段下だ。プロマジックのライフスタイルとは反するが、彼氏を応援するために来ていたらしい古い顔馴染みもいた。俺は彼女の向かいに座って挨拶をしたんだが、彼女は「後で話すわ」と言ってふらふらとその場を立ち去った。

ファンファーレ、祝福、スピーチ、自己肯定が続いた。

「皆さんの精神的コンディションを最高にして欲しい」
会場内の時差ボケで疲れ切った面々にむけて彼らの一人は言った。

奴はきっと本気でそう思っていたんだろうな。他の何人かも同じだったかもしれない。ドラフトのペアリングが2箇所だけに掲示された。人ごみを押しのけて確認するのに時間がかかり、テーブルの番号が卓の番号だと理解するまで更に時間がかかった。俺の卓は比較的楽だ。日本人は一人しかいなかったし、カモも何人かいて、他の大会で良くみかける典型的なマジックプレイヤーばかりだった。

「ただのマジックだ」
ロブは言った。
「やってやれない事はないよ。考え過ぎちゃだめさ」

俺は最初のブースターを開封し、考え過ぎた後血顎の狂信者の代わりに焙り焼きをピックした。そしてウクドのコブラが流れてきた・・・12時間前、俺たちは青黒が卓4まで許容されると結論を出していた。が、いやいや俺は下家に黒を流して返しに緑を貰うぜ!次のパックで俺は邪悪な復活と粗暴な軍族長を流し、自分にうんざりした。この環境はレア次第なんだが俺のデッキには1枚も入っていなかった。

一連のやらかしを奇妙にしたのは、自分が全く緊張していなかったことだ。高揚を感じることができなかった。どう解釈してもらっても良いが、俺が自分自身に何も期待してなかったからかもしれないし、タダでPT行けたからかもしれない。自分のポーカーや演奏の経験が理由の一つだろう事は間違いない。いずれにせよ、自分が何も感じなかったことに対して悪い気分にはなった。



8


スペルを23枚にするためにティムールの呪印を突っ込んでる間これらの事が頭の中をよぎった。その後自己否定に10分間浸った。試合中に俺が解決策や確率を計算してるフリをしてる時は大体そんなことをしてる。
初戦で俺はカモの一人と当たって赤緑ミラーで負けた。ゲーム1では次のターンで勝てるところを溶岩の地割れで負け、ゲーム2では聖書の如くフラッドして負けた。

「協調出来たプレイヤー同士を組んで欲しくないよね」
彼は言った。

俺は負けるべきでは無い相手に負けた事、自分の優越感に対する自己嫌悪、心底イヤな感想戦に対して気分を悪くした。

「どうやって赤緑にいったのさ?」
彼は続けた
「なんかさ、俺はアタルカの命令をファーストピックして、もう初手級っしょとか思って、んで赤緑が全然来なかったんだけど理由がわかったよ!」

俺は絶望で頭を振った。アタルカのクソ命令!??ウクドのコブラを流して!?そして、自分を貶めたメッセージをフェイスブックの友人たちに送ったよ。こんなに自己嫌悪に陥ったのは前回の競技マジック以来だ。プロツアーには弱いプレイヤーが沢山いるけど、自分自身がそういったプレイヤーに負けるのは、正気でこのゲームを続けるために自分を卑下する行為を逆撫でするものだね。

次のラウンドは更に笑えた。相手はあまりに緊張していて、ハローさえどもらずに言えなかったんだ。奴の握手はスティーブンホーキングがパーキンソン病を一時的に渡したようだった。奴は数々のミスを犯したが関係なかった。俺はストレートで負けた。この時点で俺のお土産袋は壊れ、洗濯物が詰め込まれていないリュックを持っていなかったのでお土産袋をもう一つ貰った。欲しけりゃ2ドルで売ってやるよ。

その次のラウンドはまた更に笑えた。対戦相手は韓国人だ。言語の壁により対話の無い試合になる事は予想出来ていたんだが。1ゲーム目は負けだ。俺のポジションがどれだけ絶望的だったかは彼のジンモンクトークンの一つがサイコロだった事によって隠された。(対戦相手の半分以上がダイスや紙を借りていた・・・俺もだ。そして俺がライフパッドが黒過ぎて何もメモ出来ない事を言うと、隣の席の奴が頭を振りながら「典型的なWotCだな、、、」って。わかってくれたか!)まあそんなわけで俺は韓国人にゲーム2とゲーム3をマリガンさせた。彼の状況が悪くなったところで映画のようにデッキをトントンし始めたんだ!旅行するとステレオタイプについて理解を深めることが多いが、オタク達はどの世界でも俺が大体想像した通りだったな。

1-2はこのデッキに対して公平な結果だと思えたし、ポジティブな気持ちで昼飯に向かえた。ここで、恥ずかしい秘密を明かさなくてはならない。昼飯は提供されると思っていたんだ。

馬鹿な俺だよな?15分列に並び、10ユーロを払い、2オンスのバーガーを平らげでマズイコーヒーを飲んだあと自分の期待がどれだけ馬鹿げた事だったかを理解した。エリア内の最悪な町の最悪な会場を借りる事に関してはWotCは一流だ。昼休みはちゃんとした食事を取るために必要な時間には全く足りなかった。ブリュッセルはそれ以外では最悪だがメシは最高なんだがな。

もちろん昼休みに何も食わないよりゃマシだ。エヴァンはトイレ行くからって列を離れたんだが、10分かけて小便してたんじゃもう戻れない。彼は昼休みの終わりが近づいているのにMOの8構が埋まるのと同じ速さで進む列の最後尾に戻らなきゃならなかった。日光は俺を原人のような気分にしてくれたから、ジョシュがくれたタバコの残り半分を吸って、フレンドリーなオーストラリア人と喋ったあと会場に戻った。俺の自己嫌悪は完成に近づいていた。

コメント

Pechiko
2017年7月6日13:56

めっちゃ面白いです。

アメリカ人でも日本人は無条件に強いってイメージなんですね。

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